ストローラー プレス・PR 鈴木貴之さんに聞く、ギフトの思い出
気のおけない友人から誕生日にもらった、3冊の雑誌。お母さまに贈った初めての海外旅行——。どちらもお金に変えることのできない、忘れられない想い出です。
“雑誌オタク”を感動させたスペシャルな3冊
鈴木さんが友人からその雑誌を贈られたのは、6〜7年前のこと。それまで勤めていた飲食店の仕事を続けながらファッションのPRとして独立し、プレスルームを構えたばかりの頃だったそう。
「友人も僕もファッションが大好きで、その頃は毎晩のようにその話題で盛り上がっていました。加えて、自分は雑誌も大好き。中学生の頃から『メンズノンノ』を学校に持って行っていたし、高校時代には『ミスターハイファッション』との衝撃的な出会いがあり大ファンになりました。大学の時も“教科書と一緒に雑誌を持つのがおしゃれ”みたいなムードがあって、いつも携帯していましたね。実は今でも80年代あたりの古い雑誌を集めるのが趣味で、休日には神保町の古本屋にバックナンバーを探しに行くことも。“雑誌オタク”なんですよ(笑)。だけど、ちょうど6〜7年ほど前から、雑誌の廃刊や休刊が増え、オンライン化がスタートするなど雑誌業界全体が変革期に入って。それでふたりで、よく雑誌の魅力について熱く語りあっていました。雑誌は紙の質感や印刷の匂い、あのめくる感じがいいんだよねとか、雑誌と電子書籍は完全に別物だよね! とか」。
そしてそんななか、鈴木さんの誕生日に贈られたギフトが、生まれ年に出版された洋雑誌のバックナンバー。『VOGUE』の7月、10月号と『ELLE』の11月号でした。
「しかも『ELLE』は、発行日が“20 NOVEMBRE 1978”と自分の生まれる2日前! 友人は、わざわざ日にちの近いものを探してくれたんです。そこには自分のために費やしてくれた時間と労力があって、相手のことを思ってこそのギフトだなあと感動・・・。それが何より嬉しかったですね」。
この後、鈴木さんは徐々にファッションPRとしての仕事を広げ、本格的にファッション業界で働くように。そんな人生の過渡期に贈られた雑誌は、もしかしたら“夢の始まり”を後押してくれる力になっていたかもしれません。贈られるひとの好みに+αのアイデアを効かせたギフトは、たくさんの会話を重ねてきた親しい友人だからこそできたこと。3冊の雑誌は、今もプレスルームの本棚に飾られ、いらっしゃる方々とのカンバセーションピースになっているそうです。
生きる張り合いを生んだドキドキの初体験をプレゼント!
そんな鈴木さんは、ここ数年、お母様へのギフトとして一緒に海外旅行に行かれているとか。きっかけは、数年前にお母様が病気から快復された際に、元気になって欲しいと誘ったフランス旅行でした。
「僕は若い頃から頻繁に海外旅行に出ていて、今でも何かあると“海外に行く”というのがいちばんのリフレッシュ方法なんです。けれど母は、まだ一度も海外旅行の経験がなくて。口ではあまり興味がないと言っていましたが、テレビの録画履歴を見るとフランスやパリ特集があったりして、これは機会がないだけで本当は行ってみたいんじゃないかなと(笑)。それに母親の世代って、昔映画で見た風景を実際に目の前で見られたら、すごく嬉しいんじゃないかと思うんですよ。僕たちと違って海外に行くのが大変だった時代の記憶があるから、まさか自分がスクリーンで眺めていた風景に立てるとは想像もつかないんじゃないですか。このままだと一生行かずに終わりそうだったので、“一度はこの島国を出してあげよう!”という気持ちで、思いきって誘ってみました」。
行き先はフランス。南仏のマルセイユとカンヌに渡り、最後はパリを満喫した10日間。旅行中は、初の海外旅行を安心して楽しんでもらおうと、お母様につきっきりでガイド役に徹したのだとか。
「とにかくずっと一緒にいました。たとえば地下鉄に乗る時も、自分はつねに母の後ろにいてきちんと乗れるかどうか見ていてあげなきゃならないですしね。特にケンカもありませんでしたが、多少イライラしたとしても、そこはぐっと我慢。僕は海外に慣れているし、ネットで色々な情報を得ることもできますが、母は右も左もわからない場所で僕しか頼る人がいないわけですから。ふたりの間に一瞬でも嫌な空気が流れたら旅が台無しになってしまうので、それは避けようと。旅行中は、一緒にお酒を飲んだりしていい機会でした。知らなかった母のたくましい面も発見できたりして、僕にとっても新鮮な旅だったと思います」。
驚いたのは、帰国した途端、鈴木さん自身が熱を出してしまったこと。「自分ではそんなつもりはありませんでしたが、やっぱりだいぶ気が張ってたのかな」と笑います。お母様はといえば、その旅行以来、「次はどこへ行こうかしら?」と考えるのが楽しみのひとつに。鈴木さんの全力のギフトは、お母様に“海外旅行”という新たな扉を開いてあげたのです。
「これまでになかった興味の対象を得たことで、ずっと健康でいようと前向きになれたなら何よりです。本当に、ギフトって金額の問題ではないし、モノの価値だけで喜ばせたり喜んだりすることでもないですよね。きっと“相手のことを考えながら選んで、贈る”行為そのものが、ギフトなのではないでしょうか」。
写真/関夏子 取材・文/村上治子 2016.10.04
鈴木貴之 すずきたかゆき
ストローラー プレス・PR。「ロゥタス」「ルームエイト」「チノ」など11ブランドを抱えるプレスオフィス主宰。飲食業からファッション業界に転身した異色の経歴ながら、前職で培われたコミュニケーション能力で、デザイナーはもちろんスタイリストや編集者からの信頼も厚い。洗練されたソフトな物腰とは裏腹に、情熱的で凝り性な一面も。ファッション、雑誌、旅行の他、最近夢中になっているのは登山で月2回は山に登る。